つくる が生まれるまで Where Making Begins
CASE 02|アークテリクス ニュウマン高輪ブランドストア
カナダ・ブリティッシュコロンビア州ノースバンクーバーで、ガレージメーカーとしてスタートしたアークテリクス。その旗艦店のひとつとなる「アークテリクス ニュウマン高輪ブランドストア」の空間施工とサイン計画を担ったのがdacだ。
アウトドアブランドが大切にする「functional beauty(機能美)」と、dacが掲げる「作るの先まで考えて作る」というフィロソフィーは、どのように響き合ったのか。
カントリーディレクターの高木賢さんと、グローバルでストア開発を統括するクリストファー・ペレクさんの言葉から、その関係性を紐解いていく。
「森を連れてくる」ストアづくりとパートナーシップ
アークテリクスの物語は、クライマーのためのハーネスを手売りするところから始まった。それが評判を呼び、ブランド名を現在の「ARC’TERYX」へと改めるタイミングで、始祖鳥の化石をモチーフにしたロゴが生まれた。
「世界で最初に飛んだ鳥といわれる始祖鳥に『進化を続けるぞ』という気持ちを込めて、アーキオプテリクスから造語でアークテリクスにしたんです」と高木さんは言う。

グローバルで掲げるブランド目標は「Leave it better」である。
「いろんな訳し方がありますが、僕らは『この世界をより美しく』と解釈しています。製品やブランドを通じて、この世界を少しでも良くしていきたいというのが目標です」
日本ではディストリビューターによる展開を経て、2010年代前半から直営店ビジネスを本格化させた。店舗を増やすなか、コロナ禍をきっかけにアウトドアやスポーツを取り入れるライフスタイルが広がり、アークテリクスに触れる人も一気に増えていった。駅の施設内にオープンした「アークテリクス ニュウマン高輪ブランドストア」も、その流れの中で生まれた店舗のひとつである。
「JRの担当の方から『最終的に街を作ります』と聞いて、とても面白いと感じました。インバウンド依存ではなく、日本人がちゃんと住んでいる街で店をやりたいとずっと考えていて。将来的に品川とデッキでつながって街になっていく、というビジョンに共感してこの場所に決めました」

好きになってもらうための「functional beauty」という考え方
アークテリクスのものづくりの核にあるのが、「functional beauty(機能美)」という考え方である。
「創業当時から『細部にまでこだわる』ことを大事にしてきました。機能は最高であるべきですが、そこに美しさが伴っていないものは良くない。機能とビューティが両立していることが重要なんです」
その価値観は、日本の消費者の感性とも響き合っている。
「日本のユーザーは禅などの文化的背景もあって、華美な装飾よりシンプルで美しいものを求めるんです。アークテリクスのプロダクトが支持されている理由の一つは、そこにあるのかなと感じています」
この「シンプルで、美しく、細部までつくり込む」という姿勢は、店舗づくりにも一貫して貫かれている。ニュウマン高輪ブランドストアのパートナーに dac を選んだ背景にも、その感覚の共有があった。
「『そこまでこだわらなくてもいいだろう』と思われがちなところにこそ、最終的な差が出る。建築もプロダクトも、そういう細部ができていないと、見かけだけ作っても“粗(あら)”が出て『大したことないよね』となってしまうので」
なかでも高木さんの印象に残っているのが、ブランドの象徴であるロゴ周りの仕事である。
「アークテリクスのロゴは形も複雑で相当、苦労されたと思います。でもロゴは僕らのアイデンティティなので、そこをすごくきれいに仕上げていただいたのはありがたかったです。照明の当て方やエッジの処理まで含めて、全体的にも細かいところまできれいに整っていました」
一見では気づきにくい段差や素材同士の納まりといった部分にまで目を配り、ロゴがいちばん美しく見える厚みや奥行きを一緒に探っていく。その粘り強さに、高木さんはdacの「つくりの細やかさ」と、日本の木工・内装技術の確かさを感じたという。




西海岸の森の空気を、ニュウマン高輪にひらく
グローバルでストア開発を統括するクリストファー・ペレクさんは、自身の役割を「世界中の店舗の立地を見つけ、デザインし、つくり上げること」だと説明する。

「Arc’teryx のデザインコンセプトは、ブリティッシュコロンビア州の西海岸の空気を、世界中の店舗に持っていくことです。木材や植物、金属のディテールを通じて、店に入ったときに少しでも BC を感じてもらいたいと考えています」
ニュウマン高輪の空間について、ペレクさんは「本当に森の中を歩いているような感覚になる」と話す。その感覚を支えているのは、木材・金属・植物のグリーンがバランスよく混ざり合っていることだと指摘する。

「この店で特に気に入っているのは木材です。軽やかで、温かみがあって、とても『迎え入れてくれる』感じがする。日本の木工技術や職人の精度の高さがあるからこそ、このレベルの仕上がりが実現できていると思います」
細いラインで構成された什器や、微妙なアールがついたカウンター、木と金属がぶつかる部分の納まりなど、図面だけでは表現しきれない部分を、現場で丁寧に形にしていく。その一つひとつに、日本の職人技とdacのディレクションが効いている。
さらにペレクさんは、この店舗が「ローカルの店」であることも強調する。
「この店舗は日本のローカルマーケットのための店です。観光地というより、近くに住む人や通勤・通学で行き交う人たちが、日常のなかでふと立ち寄れる場所にしたいと考えています」
店舗が果たす役割についても、こう続ける。
「私たちは、お客様に店舗で長く過ごしてもらい、どこで登山をするか、どこでスキーやトレイルランニングをするか、といったことを知ってもらう場所にしたいと考えています。店内で良い体験をして『次に何をしようか』という具体的な計画を持って帰ってもらう。それがアークテリクスのストアで目指していることでもあるんです」
そのためには、単に見栄えが良いだけでなく、日々のオペレーションや導線、什器の耐久性まで含めて「使い続けられる空間」に仕上がっている必要がある。そこでも、細部にまで配慮したdacの設計と施工が、ブランドの期待に応えている。

「作る」のその先までいっしょに考えるパートナーとして
「作るの先まで考えて作る」。dacが掲げるこのフィロソフィーに対して、高木さんは自らの経験を重ねる。
「僕自身、家を建てるときに建築デザイナーにお願いしたのは『100年先に見てもおかしくないものにしてほしい』ということでした。100年先に見たとき、ただ古くなっているのではなく『古いけど、いいよね』と言えるものが理想なんです」
作った瞬間だけではなく、その先の時間をどう引き受けるか。ロゴの一灯、什器の一枚、木口の一線までを「時間に耐えるか」という目線で決めていくdacの姿勢に、高木さんはアークテリクスとの共通点を見出している。
アークテリクスの「Leave it better」と、デザインアートセンターの「作るの先まで考えて作る」。二つのフィロソフィーが重なり合うところに、駅ナカでありながら、森の空気をまとい、時間とともに味わいを増していくニュウマン高輪店が立ち上がっている。
