
dacが迎える新しい時代
木下雅道 / デザインアートセンター取締役社長
伝統と変革のはざまで
「dacは、保守的な日本企業の象徴だと思っていました」
そう語るのは、2024年6月に取締役社長に就任した木下雅道だ。彼の経歴は異色。アディダス・ジャパン、ザラ・ジャパン、オンデーズなど、グローバル企業で事業開発の責任者を歴任し、いわゆる「外資系の風」をまとってきた。その彼が、62年の歴史を持つdac(デザインアートセンター)という、伝統と格式を体現するような日本の会社のトップに立った。
「最初にdacと接点を持ったのは、約15年前、アディダス・ジャパンで店舗開発部長だった時です。正直、最初の印象は“歴史のある大きな会社”という漠然としたものでした。でも、入社してみてわかったんです。60年以上続いているという事実が、取引先に大きな安心感を与えていることに」
木下の言葉には、伝統の重みと、それを守り続けてきた会社へのリスペクトがにじむ。しかし同時に、彼の視線は未来を見据えている。
dacの強みと「もったいなさ」
dacの最大の強みは、都内最大級の床面積を誇る新木場の木工場だ。
「工場を初めて見たときは驚きました。大きな原木の製材から機械や多種多様な木工加工の設備までが揃い、デザインから設計、製作(木工と塗装)、設置まですべてワンストップでできる。これほどのスケールは都心には他にそうありません」
この一体型の生産体制は、dacならではのクリエイティブとプロダクションの融合を可能にしている。だが、木下は入社早々、ある「もったいなさ」を感じていた。
「社員一人ひとりが、自分たちの仕事の社会的価値に気づいていない。木工のスペシャリストとしての誇りを、もっと持ってほしいと思いました」

新しいステートメントの誕生
そこで木下が取り組んだのが、会社のアイデンティティを再定義することだった。
「dacの強みは木工です。その技術と知識を、単なる空間づくりにとどめず、社会や人の幸せ——Wellbeing——までつなげたい。その思いを込めて、新しいステートメントを作りました」
Wood, Works, Wellbeing
つくるの先まで、考えて、つくる。
「木の肌ざわりや香り、色や模様。人間が木にぬくもりを感じるのは、600万年も共に生きてきた記憶がDNAに刻まれているからかもしれません。私たちは、木を形にする力でWellbeingを目指す会社でありたいんです」
このステートメントは、dacの社員に新しい誇りとモチベーションを与える旗印となった。
THE SHIFT!——リブランディングの挑戦
新しいステートメントの制定は、dacのリブランディングプロジェクト「THE SHIFT!」ともシンクロする。
「THE SHIFT!は、単なるイメージチェンジではありません。会社の存在意義や価値観を根本から見直し、未来に向けて進化するためのプロジェクトです」
このプロジェクトでは、ブランドイメージの刷新から、ブランドコミュニケーションの再構築、コーポレートサイトの全面リニューアル、そしてゆくゆくは自社ビルのリノベーションまでが計画されている。新規ビジネスモデルの模索を目指し、あらゆる角度からdacを“シフト”させていく。
「プロジェクトの中心は、若い世代の社員たちです。そして経験豊かなベテラン社員たちが、彼ら彼女らをサポートします。dacには10代から70代まで約100人の社員がいますが、年功序列はありません。若手が自分の得意分野を見つけて、どんどんチャレンジできる環境を作りたい。新しいdacの未来は、彼らの手に委ねられているんです」
オフィスリノベーションと新しい働き方
THE SHIFT!の象徴的な取り組みの一つが、オフィスリノベーションだ。
「オフィスは単なる“働く場所”ではなく、社員がクリエイティビティを発揮し、コミュニケーションを深める“場”であるべきです。新しいdacの価値観を体現する空間を、自分たちの手で作り上げています」
このリノベーションには、社員自らが積極的に関わり、木工のプロフェッショナルとしての技術と誇りを存分に発揮していく予定だ。

「業界で一番稼げる会社」を目指して
木下がもう一つ強く掲げるのが、「業界で一番稼げる会社」になることだ。
「まずはしっかり売上を立てることが大切です。これまでのdacは、業績給という形でボーナススキームがありましたが、現場によって差が出てしまう。再現性がないと、社員のモチベーションにはつながりません。ですから、給与体系を年俸制に刷新しました。売上を伸ばし、dacを大きなことができる会社に生まれ変わらせます。そのためには、社員一人ひとりが自分の力で稼げる実感を持てることが先決です」
「夢の実現のために、ぜひ力を貸してください」木下は、社員一人ひとりにそう呼びかけている。
未来へ——dacのこれから
dacは今、63年の伝統を土台にしながら、大きな変革の波を迎えている。
「Wood, Works, Wellbeing つくるの先まで、考えて、つくる。」この言葉を胸に、dacはコンサバからプロアクティブへ。木工のプロフェッショナル集団としての誇りを再び胸に刻み、社会的価値と経済的価値を両立する企業へと進化しようとしている。
「dacの変革は、まだ始まったばかりです。我が社の新しい挑戦に、ぜひご期待ください」
木下雅道のその言葉には、未来への確かな希望が込められている。

木下 雅道 | 1972年 茨城県生まれ(52歳) 1991年 茗溪学園高等学校 卒業 1996年 アメリカ合衆国 サウスイーストミズーリ州立大学 卒業 Bachelor of science(理学士) 同年 株式会社サンルートホテルシステム 開発部 2001年 株式会社フォーシーズ 店舗開発部 副部長 2005年 アディダス・ジャパン株式会社 店舗開発部長 2012年 株式会社ザラ・ジャパン 店舗開発本部長 2019年 株式会社オンデーズ 執行役員 事業開発本部長 2024年6月1日 株式会社デザインアートセンター 取締役社長 |